Works

連載「働くことを考える」 第3回 シンポジウム報告

 

2021.3.30

第3回 シンポジウム報告

 

連載【働くことを考える】では、「障害」と「働く」をテーマに、障害がある中で働くということ、社会や制度の現状、今後の可能性などについてを考えていきます。

 

前回は、働く中で私が感じていることをお伝えしました。
今回は、昨年参加した障害者就労に関するシンポジウムの報告をします。

 

 

障害者にとって「働くこと」や「生きること」について考える
~「働く」ときの介護保障や合理的配慮と、「生産性」優位社会について~
http://www.jcil.jp/sinp.html
アーカイブ動画:https://youtu.be/xRnWaAGq0LQ

 

2020年12月19日(土)13:30~16:30に行われた上記のシンポジウムに、オンライン参加しました。

今回のシンポジウムは、れいわ新選組参議院議員の木村英子さんの基調講演をはじめ、様々な立場の当事者や厚生労働省からの報告など、濃厚な内容でした。

 

障害がある中で働くということには、沢山のハードルがあります。
社会の中にどのようなハードルがあり、どうなれば良いのか、それを支えるためにどんな制度があり、未整備な部分はどこなのか。
また現在、障害の有無に関わらず、生産性重視社会の影響で苦しめられている人は多く居ます。
その中で、様々な「生き方」や「働き方」が肯定され保証される社会していくためには、何が必要なのかということが、このシンポジウムを通して登壇者から語られました。

 

①報告 『わたしの就職活動』 脊髄性筋萎縮症Ⅱ型当事者 小暮理佳さん

大学在学中に就職活動をした経験からの報告でした。
小暮さんは2017年(大学2年生)から就活の情報収集をはじめ、重度訪問介護は経済活動で使えないことや職場介助者助成金の存在を知ります。
翌年、2018年(大学3年生)にインターンシップに参加し、働けるかもという希望を持ちます。民間エージェントから「働けるという前例、根拠がなければ難しい」と言われていたことから、インターン実績が根拠になり得ると考えていましたが、2019年(大学4年生)に10社(障害者採用・一般採用含む)受けたところ、全て落ちてしまったそうです。
雑貨の商品企画のようなクリエイティブな業務を希望していましたが、後半は条件が合いそうなところを優先しても、受からなかったそうです。
また履歴書以外に障害説明書を作成して配慮事項等を伝えても、障害者手帳1級という部分で判断されてしまい、初めて障害者手帳1級の重さを感じたとのことでした。

小暮さんがぶつかった社会的障壁は、主に以下の4つで、
「そもそも重度障害者を知らない」:書類選考で落ちて面接に進めない
「設備の問題」:バリアフリー面や多目的トイレの有無
「介助者の問題」:企業側は介助が必要な人を雇う気がない、助成金を知っていてもそこまでする気がない、部外者(介助者)が出入りすることへの抵抗感
「働く時間の問題」:新卒で時短勤務制度がない企業がほとんど、総合職は業務の切り出しができない、時短勤務可能な職種は事務系ばかり

上記の社会的障壁によって、「どんなにやる気や熱意があっても企業側に雇う気が無ければ、自分では太刀打ちができない」と言っていたのが印象的でした。
最後に、理想として、「重度訪問介護が経済活動でも使えるように」「時短勤務可能な企業の増加」「体調に合わせ、出社か在宅勤務かを選べるように」「障害者雇用の職務の増加」が挙げられ、次の世代の夢がかなえられるような社会になってほしいとのことでした。

 

②基調講演『しょうがいしゃの社会参加の実現に向けて』 れいわ新選組参議院議員 木村英子さん

木村英子さんは、れいわ新選組参議院議員で脳性麻痺当事者でもあります。今回の基調講演は、幼い頃の施設での経験から国会議員になるまでの流れについてのお話でした。
木村さんは、愛に飢えた施設での生活の中で、地域生活をする先輩の姿を見て憧れを抱き、19歳の頃にその先輩の元に飛び込む形で地域に出ました。
施設での暮らしが長かったことから、地域で生活を始めた時には多くの困難さやギャップを感じていたそうです。木村さんはこれを「分けられてきた弊害」と言っていました。
そういった中で、地域で生活していくためには運動が必要だと痛感し、活動をしていた中で山田太郎さんと出会い、出馬を決意します。

重度訪問介護というサービスは、自治体によって対応が違ったり、必要な時間数が充分に支給されないという実態があります。
また、国会登院の際に話題になった、就労中に重度訪問介護サービスが利用できない点については、現状参議院が介護者の費用を負担する形で議員の仕事をしているそうです。

厚生労働省は、上記の改善策として今年10月1日から2つの制度を作りました。
一つは、「重度訪問介護サービス利用者等職場・通勤介助助成金制度」、これは従来からあった障害者介助等助成が拡充されたものです。
※詳細は、(https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/kaijo_joseikin/q2k4vk0000039x22-att/q2k4vk0000039x4z.pdf )をご覧ください。
2つめは、新設された「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」です。
※詳細は、(https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000675279.pdf )をご覧ください。
新たな制度は出てきていますが、これらはほとんど自治体には知られていないため全く使えない状況になっているそうです。

国会での仕事をする際にも沢山のバリアがあったそうです。それらを解消するために交渉し、現在では服装規定や議席配置などの合理的配慮を受けながら登院しているそうです。
このように、重度障害者が実際に街や仕事の場に出ることで社会が少しずつ変わっていく、 今後も多くの障害のある方が街に出て、社会を変えていくことは重要だということでした。

 

③報告『障害者雇用対策の現状と今後の展望』 厚生労働省職業安定局雇用促進係長 中村健太郎さん

障害者雇用の状況や厚生労働省で施行されている制度についての報告でした。
障害者雇用数は16年連続で過去最高を更新しているそうです。障害の種別で言えば、平成21年からの約10年で精神障害者の割合24%から48%に増え、精神障害者の雇用が拡大しているようです。
現在、厚生労働省では「障害者雇用・福祉連携強化PT」という取り組みを通して、現行制度の雇用と福祉が縦割りになっている問題を解決しようとしています。
障害当事者が自分の希望に合った、働きたい意思を叶えられるようにという方向で考えているとのことでした。

 

④報告『線維筋痛症患者と社会参加』 線維筋痛症友の会関西支部 尾下葉子さん

線維筋痛症という難病当事者の社会参加に関する報告でした。
線維筋痛症とは、慢性疼痛や慢性疲労が主な症状の難病です。様々な随伴症状もあり、一般的な検査では異常が見つからないということから、理解されづらい障害だといいます。
現在は、体調に合わせて無理をしない生活をしており、患者会の活動や寺子屋での活動をメインで行なっているようです。制度の壁でヘルパー制度は利用できず、家事をするということが日常の中で一番大変なことだそうです。
痛みや疲労は見た目では分からないので、周りの無理解が最大の困難であるそうです。
難病といっても制度を利用することが出来ないことも多く、制度の谷間にある人達と呼ばれているようです。
最後に、障害の有無に関わらず、「お互いのマイペースを尊重できる柔軟性が大事なのではないか」とのことでした。

 

⑤報告『私たちにとって、働くこと・生きること・活動すること』 ピープルファースト京都(知的障害当事者団体)メンバー

知的障害の当事者団体、ピープルファースト京都の当事者2名から報告がありました。
これまでの生活の中で大変だったこと、ピープルファーストで働き始めて変わった生活の様子についてそれぞれのお話がありました。
現在の仕事は楽しく出来ているけれど、一般就職をするということになれば大変だと思う。一般就職をするのは、イメージをしにくい。というお話でした。
またピープルファーストの支援者、渡邊さんから、「知的障害のある人たちのより多様な生き方、より自分たちが安心できる生き方、やりたいことができる生き方が肯定され、そのための支援が保障されるようになることを願っている」という言葉がありました。

 

⑥報告『障害×働くこと』 DPI日本会議常任委員(雇用・労働・所得保障部会)、CILふちゅう代表 岡本直樹さん

障害者と就労というテーマで、自身のこれまでの経験や働くということについて考えを話していました。
障害者雇用を取り巻く現状や、10月に開始した「雇用政策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」についての評価や問題点課題などがメインの内容でした。
評価できる点については対象障害者の範囲がある程度広がっているという点などが挙げられました。
問題点・課題としては地域生活支援事業の市町村任意事業であるということや事務手続きが極めて煩雑ということなどが挙げられました。
岡本さん自身が望む働き方としては、「障害者の有無に関係なく、仕事を選ぶことができて当たり前に採用されること」、「どんな会社にも障害者がいて、会社にいても障害を感じることなく、その人の持つ力を最大限引き出せる環境であること」、「介助が必要であっても働いて納税し社会に貢献できること」だとしていました。

 

6組の当事者や厚生労働省の職員などからの報告がありました。
それぞれの立場から、当事者ならではの経験や感じていることなどを聞くことができて、とても勉強になりました。
厚生労働省の障害者雇用の担当部署の方も参加していたことから、施策と共にこれから障害者雇用がより進んでいけばいいと感じるシンポジウムでした。

 

 

以上が、シンポジウムの報告です。

次回は、このシンポジウムを通して見えた、現状と課題、私が感じたことなどについてまとめていきます。

 

 

執筆:吉成亜実(みらいつくり研究所 リサーチフェロー兼ライター)