Works

第20回みらいつくり読書会 開催報告

みらいつくり大学校企画
第20回みらいつくり読書会@zoom

【課題図書】
ジョージ・オーウェル『動物農場』

【実施日時】
2021/1/18 16:00〜17:00

【参加者】
A,B,C,D,E(+ラジオ参加1名) 全6名

【内容】
A:今日はジョージ・オーウェル、読むことができましたか?
B:あれ?Cさん読めたの?
C:読めましたよー。だって漫画があったんだもん。
D:あー漫画。
C:石ノ森章太郎さんの漫画。
B:はいはい。
C:漫画アプリで買いましたよ。
E:へ〜。
B:僕も今日のお昼に漫画版をKindleで読みましたが、割とそのままですね。
A:僕も漫画版を買いました。そのままだなと思いました。他は誰の訳で読みましたか?
B:僕はこれです。
A:岩波ですね。
B:これが一番新しいんだよね?
A:私はハヤカワepi文庫が一番新しいと思ってこれにしたんですが…。
D:僕もそれです。
B:それは何年に出版ですか?
A:いつだろう…。2016年とあります。
B:そちらの方が新しいですね。こちらは2009年です。
A:Eさんは、オーディオですか?
E:そうです。オーディオで見つけられたのが、2012年のIBCパブリッシングのラダーシリーズという、ちょっと簡単な英語に書き換えたものだと思います。オーディオ英語版で聴けました。
B:オーディオって、雰囲気出す感じなんですか?それとも淡々と朗読する感じ?
E:結構淡々と朗読をしていて聞きやすいです。効果音とかもないですし。
B:Kindleの機能で、英語版だと自動読み上げがありますよね。結構前からあるような気がしますが、日本語はまだないんでしょうか。
D:あるのかな、どうだろう。
E:私はタブレットの読み上げ機能を使ったことがあります。それだと日本語でも英語でも棒読みで聴けたもんじゃなかったんです。
B:でも日本語も読んでくれるんだ。
E:一応日本語も読んではくれましたが、それは視覚障害の方のための機能でもあるので、途中で「モドル」「ススム」「1ページモドル」という機能的なボタンも読み上げちゃんですよね。だからあまり現実的ではなくて使えませんでした。
A:早速ですが、今日はみんな読めたということなので、物語の内容を確認することはせずに感想に行けたらと思います。Cさんいかがですか?
C:いつも私からなんですけど!全然いいんですが。私は石ノ森章太郎さんの漫画が読みやすくてスラスラはいってきました。漫画の方で、最後に豚が人間っぽく描かれていて、なんでだろうと思いました。調べてみると、「最後は人間と変わらなかった」とあったのでなるほどと思いました。この本は結構昔に書かれた本ですよね。今私はNHK『100分de名著』でマルクス『資本論』をみています。資本主義の台頭によって人間の生活がどうなるのかを危惧していているという内容です。この本も最初はみんなで頑張ろうと言っていたのに、どんどんリーダーが出てきて、その人たちだけが裕福になっていく。信じて頑張っている人もいれば、自分の置かれている状況がわからずに頑張っている人もいます。騙されているわけではないけれど、丸め込まれている人もいる。これって変わらない世の中なんだなと思いました。この本を読みながら考えていたんですけど、私たちは生活の質を上げるために色々とがんばりますよね、生活の質が整ったときに自分の中で余裕ができて、心が豊かになる。そのときに周りの人に優しくなれる、寛容になれる。私はそんなことを考えています。そうなると、今色々と問題なっている障害者のこと、LGBTのこと、色々な人たちを受け入れることができるんじゃないかなと思います。確かに、マルクスの『資本論』や、オーウェルの『動物農場』とかが、「こうなったら危ないよ」と言っているけれど、今の世の中は確実に良くなっているんじゃないかなと思いました。私はそう思いました。こういう本が出ていて、本を読まない私でも、もうちょっとこうした方がいいんじゃないかなんて考えます。そんなふうに、なんとなくでも気がつく人が増えて、社会が少しずつよくなっているんじゃないかと思いました。「今の世の中は寛容じゃない」という人がいます。でも、先日別なところで出てきたアリストテレスの時代なんかと比べて、女性や奴隷のことを考えると、今の時代はより多くの人たちを受け入れられているんじゃないかなと思います。もっとこれからいい世の中になるのかな、なんて明るい未来を想像しました。こういう教科書的な本をみんなが読めたらいいのになと思いました。以上です。
B:相変わらずラディカルな読みですね。
C:なんでですかー。
A:ラディカルな読みに定評がありますよね。
B:ちなみに、『動物農場』は社会主義とか共産主義の世界の話だから、マルクスが批判した資本主義の話とは全く別です。マルクスは資本主義を批判してそれを壊すためには共産主義社会をつくるしかない、そのためには革命を起こすしかないと言いました。その革命を起こした後にどうなっていくのか、というのが『動物農場』で描かれています。もともとソヴィエトの話ですけれど。だから混同しない方がいいかなとは思います。でも『100分de名著』をみているんですね。テレビで。
C:そうなんです!でも1回目は寝ちゃうんです。難しすぎて。「寝ちゃった!」ってなる。だから2回みてます。
A:100分じゃないってことですね。
C:そう。
B:確かに。
A:あとがきにもあった内容が心に残っています。共産主義を批判しているというよりは、ソ連のスターリニズム批判だと書いてありました。共産主義=スターリニズムではないんだなと勉強になりました。そして、マルクスが言っていたことが必ずしもスターリニズムではないということです。それは押さえておかなきゃいけないと思います。テーマに、労働や生活といったものがありますが、加えて「報道」が含まれていると思います。報道の自由、報道のあり方の問題が含まれています。全編を通じて、労働における幸せは描かれていたところが気になりました。労働するときにある何かを生みだす楽しさ。体制が変化しても、いかに劣悪な環境でも、「労働する幸せ」が所々に描かれていたように思いました。それは良い意味では全然なくて、「労働が楽しい」「嬉しい」とかいうことは、盲目的につくられうるということです。背後にある思想やプロパカンダに強い影響を受けて、「労働の幸せ」が意図的につくられてしまうということを考えました。それって実は…私は「働くことって楽しい」とか「今ある生活の楽しさに目を向けていこう」と考えることが多いんです。そう思っていたとしても、盲目的に体制の変化や抑圧状況の再生産という歴史に加わりうる、なり得るんだということです。だから「いかに生活の喜びを見出していくのか」というだけではだめなんだなと思いました。体制がどうなっているのか、政治がどうなっているのか、報道がどうあるのか、そういった自分の生活よりも大きな目線で見ていく必要があるんだと思いました。かといって生活の中に喜びを見いだす必要がないということではありませんが。読み終わった後にも、思い出してそんなことを考えていました。Cさんが言っていた、豚が人のようになってしまうというところがあります。小説で言うと第10章に当たるのですが、漫画版だと4ページだけなんです。でも、その4ページで見事に表していると思うんです。
E:えー。見せて。
A:見にくいかもしれないけれど…。(画面に漫画をうつす。)馬が家の中をのぞいています。中では、豚と人間がビールを飲んでいる。最後のページが、ドン!と人間のようになった豚のアップで終わりです。
B:その前に、豚と人間が混ざったようなコマがありますよね?
A:そうです。下のところに。それがあって、豚人間のカットですね。
E:なるほど。
A:これをみて、石ノ森章太郎さんはすごいなと思いました。そんな感想でした。
B:うんうん。
E:へ〜。
E:CさんAさんの感想を聞いていて、お二人とも自分自身の状況や今の社会に引きつけて読んでいて、それがすごいなと思いました。私は書かれた舞台について考えながら読みました。ソ連やスターリン主義についての批判です。モデルと登場人物が一対一であるような、直接的な風刺になっているなと思いました。本筋とはずれますが、寓話としても細かいところにこだわっていて面白かったです。羊たちが15分間に渡って同じ言葉を繰り返すところとか、ナポレオンがビールを飲むときには1ガロンでしたっけ?3.7リットルくらいまでなんですよね。それをファームハウスクラウン…という陶器の会社のスープボウルで飲むんです。それはイギリスの会社なんです。ロイヤルチャイナの会社です。大きな豚が、その陶器で飲んでいるという様子が描写されていて、寓話的なおかしみもありました。細かいところまで効かせるようになっているなと思いました。最後の、豚と人間の見分けがつかなくなってしまう場面について考えていたんですけど、これはソ連やスターリニズム、全体主義に対する批判だけではないように思います。見分けがつかなくなる、豚がもっていて他の動物がもっていなかったもの。簡単な言葉で言うと「欲」かなと思います。人間性、欲望、そういうものに対する「批判」ではなくても「指摘」にはなっているなと思いました。その時代には関わらず、そういうことを伝えるラストなのかなと思いました。今のところそんな感じです。
B:英語だと、「よつあしいい、ふたつあしだめ」ってどうありますか?
E:「Four legs good, two legs bad.」ですね。
B:へ〜。
C:そのままですね。
E:最後は、「Four legs good, two legs better.」だったと思います。
B:他の日本語訳はどうですか?「よつあしいい、ふたつあしだめ」ですか?
D:最後の方ですよね?
B:最後の方、こちらでは「めっぽういい」になっています。
A:何章ですか?
B:10章です。
A:Dさんと同じだと思いますが…。
E:オーディオブックは読み返しがしにくいことに気がつきました。本だったらすぐたどれるのに…。
B:Kindleも同じですよね。
A:「四本足はよい、二本足はもっとよい!」ですね。
B:その前はなんだったんでしょう。これ(岩波文庫)は、ひらがなになっているので、このセリフを言っている羊たちの可愛さったらないんですよ。
C:ふふふ。
A:ひらがななんだー。
B:まるで小さい赤ちゃんが言っているような感じになっているんです。
A:羊ってそういうような感じに描かれていますよね。ひらがなにするのはすごく良い訳な気がします。
B:岩波は訳がすごく良かった気がします。
B:僕は、マルクスとかを結構学んでいました。でも、マルクス理論はやったけれど、その後のマルクス主義、その後の共産主義とかはあまり読んでいません。スターリンやトロツキーの話をなんとなくは知っていますが、こういうことなんだと思いました。そんなことを、1945年に書いているというのは…。公式にソヴィエトの中でスターリン批判がなされたのは1960年代だったと思います。その20年前に、これらの情報をどこかから得られていたということですよね。オーウェルは、スペイン内戦でトロツキー派の中に入って戦っているんですよね。多分、その辺りから内部の情報が入ってきていたのかなと思っていました。この人は新聞とかのメディアで仕入れた情報だけを用いているとあとがきにありました。どちらにしても、当時のわかっている人たちはこれだけわかっていたということです。逆にいうと、最後に「ウクライナ語版への序文」があるんですが、情報が入ってこなかったのではなく、イギリスのメディアが情報を出さなかったということなんですよね?
D:そうそう。それで出版が一年遅れたと書いてありました。
B:ソヴィエトのことも、ソヴィエトから情報が入ってこないわけではなく、入ってくるんだけど出さなかった。
D:本来出すはずだった序文は、ずっと出ていなかった。ここにある「序文(案)」ですよね。これはお蔵になったんです。それは、スターリンの話だっていうのを序文で言っているからです。それはイギリスでもアメリカでもタブーだった。それは日独伊に勝てたのはソ連が参戦したからだという連合国側の建前があったようです。ソ連を批判するというのはできなかった。「連合国の団結があったおかげで日独伊に勝てた!」というほやほやのころだから。ソ連批判、中国批判はタブーで、そういうことをする人は、マスコミから消されていった。それをあえて寓話という形で行ったのが、オーウェルです。それは皮肉なことです。なぜならオーウェルは社会主義者だからです。『1984年』って、マスコミが言論弾圧をするということにフォーカスが当たっているのですが、こういう経験のことを言っているんだと思います。「イギリス政府も言論を封じるよね」ってことです。
B:いわゆる支配層、中央委員会的なものってあるじゃないですか。それのやり方のすごさ、うまさ、ってありますね。情報を与えないっていうのもそうなんですけど、議事録を残さないですよね。だから一切検証のしようがない。安倍首相がやっていたことと似ていますが、全く辿れない。
D:まるで、この数年の日本の政治を見ているようだと思いました。
B:その文言の差し替え方。十戒ならぬ七戒への差し込み方。その素晴らしさ。
D:すごいよね。
B:「〜だめ」と言いながら、「〜は除く」と加えたり。
D:「シーツの敷かれたベッドでは…」とかね。まさに自民党の常套手段です。
B:漫画だと、七戒の改変されていく過程があまり描かれていないんです。
C:そうそう。
B:ちょこっと壁にバーンと貼られていて、それが途中で全部変わっている。原作は、一個ずつ変わっていくんですよね。
D:スライドしていくんですよね。地滑り的に。
B:最後は、「平等である。しかしある動物はほかの動物よりももっと平等である。」となる。そもそも「平等」の概念が根底から覆されている。
D:言語を破壊していく感じが、まさに安倍政権そっくりですよね。
B:それがとっても面白かったです。漫画版を見て思ったんですが、原作だとナポレオンとスノーボールがどんな見た目かは触れられていません。
E:ちょっとありましたよね。
B:あったっけ?
E:太っていく時に。
B:漫画版は、とても戯画化しているというか…ナポレオンは真っ黒です。トロツキーの本が光文社古典新訳文庫から出ているんですが、最後スターリンについて書いています。「スターリンは浅黒くて、ボソボソしゃべり、何を言っているかはっきりわからないような…噂話みたいなことを言う。そしてそれにトロツキーが何も反応しなかったら、急に距離を置く。」…そんなことを書いているんです。そんなことも、漫画の方がよくわかるように書いてありました。石ノ森章太郎はすごいなと思いました。
A:そうそう。この黒い方がナポレオンで、少し色が薄いのがスノーボールなんです。ナポレオンは、明らかに悪いやつとして描かれています。
B:でも、最初はスノーボールが、アジテーションの演説をしています。一回目の戦いの時、牛小屋の戦いの時にも、スノーボールが最前線に立っています。ナポレオンは出てこないです。その辺りも面白かったです。本当にトロツキーとスターリンの関係をそのまま書いたんだろうなと思いました。
A:今の話もあったように、単にファシズムとかスターリニズムを批判している、ということではなくて、それらを無意識的に受け入れてしまっているイギリスなどにいる知識人たちを批判しているんだよなと思いました。面白かったです。
D:僕は、これはKindleで昔読んでいました。『1984年』を英語で読んだ気がしていましたが、英語で読んでいたのはこちらでした。Kindleを使って英語で読んだのは唯一これくらいなんです。Kindleは辞書が使えるじゃないですか。それが最初楽しくて読んだんです。それ以降一回もやっていないけど。「『動物農場』は、アメリカの中学校の教科書に載っているんだよ」、と妻が言っていました。だったら自分でも読めるかもしれないと思って、読みました。その時の記憶だと、日本語で読むよりも不思議と早く読めたんです。ほとんどの本って、英語の方が5倍以上時間がかかります。多分、この本の構造上、平たい英語を使っているんですね。そして日本語にしたほうが角張っている。文字が多くなる。その時も、すごい本だと思ったし、『1984年』とあわせて、このディストピア小説には現代的な意味があるなと思ったんです。それが2015年とかだったはずです。最近はより重要な作品だと思うようになりました。2016年にブレグジッドとトランプの当選があった時に、『1984年』がすごく売れたらしいんです。それは、政府が事実を改変していくことが、トレンドだからなんですね。自民党政権を含めて。僕はやはり…先ほども出た「動物七戒」というのがありますが、革命の祖メイジャーはマルクスともレーニンとも取れますよね。理論を構成した人です。スノーボールがトロツキーで、ナポレオンがスターリン。スクイラーというのが、ナチスのゲッペルスを意識しているんじゃないかと解説にありました。ナチスの広報を担当した官僚です。ゲッペルスの名言があります。「大きな嘘を堂々とつき続けると、それは真実になる」というものです。それを地でいったわけです。動物七戒を少しずつ書き換えていって、「動物はベッドで寝てはいけない」を「動物はシーツのあるベッドで寝てはいけない」にする。「全ての動物は動物を殺してはいけない」を「理由なしに殺してはいけない」にする。「酒を飲んではいけない」を「過剰に」とする。これって、何かを付け加えることで縮小解釈するわけです。僕は自民党の憲法改正草案を、自民党のホームページからダウンロードして印刷し、時々読んでいるんです。これ平成24年のものです。一番新しいものです。これってすごくて、基本的人権のところは、現憲法では「基本的人権は尊重される」というところを、草案では「公共の福祉に反しない限り」が付け加えられています。報道の自由のところも信教の自由も、「公共の福祉に反しない限り」と変えているんです。これって彼らのやり口と同じで、本当に今こそ、ディストピアに近づいているんだなと思いました。そんな感じです。
A:色々な話が出ましたがどうでしょうか。
B:歌がね。共産主義の世界的な集まりで作った「インターナショナル」という歌があります。世界中の共産主義者たちによって歌われて、日本語にも訳されています。それが、『動物農場』の中では内容が途中で変えられてしまいます。それも、面白いなと思いました。
A:私は『被抑圧者の教育学』も思い出しました。
B:フレイレ。
A:はい。抑圧構造が再生産されているということです。力関係も、最初は人間と動物が対比されていますが、後半は動物の中でも豚と羊などが対比されていきます。Dさんが言っていたように『動物農場』はディストピア小説としてバッドエンドに描かれていますが、この抑圧構造を乗り越えていくような物語があるとしたらどんなものかなと想像しました。その方法を私はまだ知らないなと思いました。これはバッドエンドですよね。
B:フレイレはマルクス主義者ですからね。
D:オーウェルの書いた『1984年』もバッドエンドなんです。ただ、バッドエンドのSF、物語の意義というのは、高まっていると思っています。一度書かれたことって現実に影響を与えてしまいます。今『三体』という中国のSF小説があります。僕もKindleで買ったんですけど、まだ読んでいません。2019年かな、全世界でめちゃくちゃ売れたんですよね。あれは面白いらしいんです。池上彰も年間のベストテンに入れていました。内容までは詳しく知りませんが、Netflixが版権を買ったらしいんです。今ドラマ化をしているんですって。ただ、その脚本家が死んだんです。毒殺されたんです。不審死をしていて。多分、共産党批判をしている本ではないんですよ。そうだったらそもそも世には出せないから。でもSFの力ってそういうところにあって、現実を相対化してしまう訳です。一旦、相対化されてしまうと、もうその手は使えなくなってしまう。そういう力が多分あって。中国共産党はそういうのをすごく嫌がっているだろうと思います。独裁政治とかに対して、もちろん新聞記者が真実を暴くという方法もいいんだけど、今言ったように、フィクションの力は、それはそれであるのだと思います。大事ですよね。最近、『危険人物をリーダーに選ばないためにできること』という本を読みました。そこで語られていたことですが、危険なポピュリストが使う常套手段があります。それは「架空の危機の三段論法」というらしいです。「我々は危機にある」と彼らは言うらしいです。そして「その危機は誰か外敵によって(もしくは内部の裏切り者によって)、起こされている」と言います。これが二番目です。最後が「このピンチを乗り切るには私しかいない」と言うらしいです。この論法は、まさにトランプがそうですよね。「今はアメリカの危機だ」「それは中国・メキシコからの不法移民による」「壁を作れる私にしか解決できない」と言いました。まさにそうです。安倍さん的なもの、「日本を、取り戻す。」なんて言うのは、トランプほど露骨ではないけれど、共通点があります。今、世界で危険人物が選ばれる流れがありますから、こういうフィクションを読み返す意味も大いにあると思います。
A:半年くらい前に「世界SF作家会議」といって、「今こそSFを読まないと」という動画が公開されていました。SF作家が集まって議論している動画でした。話題になっていたと思います。そこで『三体』についても触れられていて「SFがSFではなくなってきている」と言う話がされていました。現実がSFに近づいている、と言うことでした。
D:独裁者は、おそらく週刊誌よりもそういったSFの方が怖いんじゃないかな。本当に社会にワクチンを与えてしまうから。そんな感じがします。
B:「日曜日に集まっちゃだめ」というのは、教会関係なんでしょうか。
D:中国の?
B:いや、『動物農場』で。
D:あー。
B:ナポレオンが「これからは日曜日に集まってはいけない」と言いますよね。これはキリスト教関係なのかなと思いました。
D:そうなのかね。なんだか「集会の自由」とかでしょうか。今、中国共産党は、コロナをいい機会だと思っていて、「3人以上集まってはいけない」と言っているらしいです。香港の知り合いが言っていました。そうなると、教会とかはもう全然立ち行かない訳です。警察に捕まってしまいます。彼らはコロナだコロナだって言うんだけど、実は「集会・結社の自由」というのを壊したいらしいです。実際、うまくいっています。そういうのもあるかもしれませんね。
E:キリスト教関係でいうと、カラスが出てきますよね。ユートピア思想をもっているカラス。それがロシア正教会の神父を象徴しているんじゃないかという解説を読みました。
D:それは知らなかった。
E:モーゼスは、いることを許されています。人間側、ジョーンズと一緒にいなくなったけれど、しばらくしたら帰ってきて、働かずに動物たちにユートピア思想を説きました。自由に過ごしてもいいとなりました。自由に食べてもいい。その存在感って、ロシア正教会のスタンスと同じだったのかな、と疑問に思っていました。今までの話と合わせると、興味深いなと思いました。
A:モーゼスもそうですが、モリーはなんでしょうか。
B:あー。
E:一番好きなのはモリーでした。
D:モリーね。
A:途中でいなくなって人間と仲良くなって…。
C:すごくリボンのかわいいこですよね。今どきというか、こっちが無理だからあっちにいきます、というような感じです。私の好きなものはここにはなかったし…とはっきりしているイメージです。
B:なんか戦いの時に逃げてしまって、藁の中に頭を突っ込んでいたんですよね。
A:一人で、人間からもらったリボンを隠し持っていました。追放されそうになるけれど、自分からいなくなる。
E:そう。自分でいなくなる。そしてお砂糖をもらってかわいい小屋にいる。
B:お砂糖、あったね。
A:最初から、「ばかで白くて綺麗なメスウマ」とあるんですよね。
C:すごい表現。
B:はっはっは。
E:「ばかで」とはなかったです。
C:漫画でもなかったです。
B:動物の例えをうまく使っているなと思いつつ、そこまで深読みしてはいけないんだろうなとも感じました。例えば「羊」って一般的にキリスト教徒の例えじゃないですか。それが常に「よつあしいい!ふたつあしだめ!」って言っているんだけど、それって関係ないんだろうなと思います。
D:うんうん。
A:ばかな、無知な、盲目なものの例えとしては機能していますよね。
B:そうなんでしょうね。盲目で権威に従ってしまうということを言ってますね。
E:羊は、共産党のコムソモール?、青年団みたいなものを念頭においているんじゃないか、と読みました。
B:羊たちが。15分叫び続けているとかすごいですよね。
E:そうそう。
B:だってもう議論できなくなるもんね。
E:私もそこ好きでした。15分間言い続けるって…典型的というか。
A:そうですね。岩波文庫の羊がひらがなで叫んでいるのは、やはり名訳ですね。
B:でも、Amazonのレビューとか見ると「何でひらがなにするんだ」とか書いてありました。読みづらいって。僕は全然読みづらくなかったですね。
A:もちろん、早川も、盲目な感じ、おばかな感じというのはちゃんと書かれています。
E:英語でも語彙がとても優しくて。わからない単語はなくて、中学生高校生くらいだったら全部わかるんじゃないかという平易な言葉で書かれているんです。
B:だとしたら、Dさんがいうように、日本語にしたほうが難しいのかもしれないですね。
E:最後の、七戒の変え方ですが、「more equal」なんですよね。
D:あ〜。
B:へー面白い。解説を読んで「あぁ」と思ったんですが、風車建設計画あるじゃないですか、あれって僕らが歴史で教わる「五カ年計画」なんですって。ロシアの。昔ありましたよね。ソヴィエトといえば「五カ年計画」でした。丸暗記した覚えがあります。実際に何回も失敗しているんですよね。「第二次五カ年計画」とか。
D:「共産主義の挫折」、ということでは、毛沢東も似たような…毛沢東も詳しくはないんだけど、彼もひどいじゃないですか。大躍進政策。1000万人以上死んでいるっていう説もあるって。餓死で。だから、同じようなことなんだろうなと思います。「共産主義」っていうものが必ずこうなるということではない。訳者解説にも書いてありましたが、この本を「だから共産主義はだめなんだ」というように読むと、それは誤読だと。なぜなら、オーウェルは共産主義者だからです。あらゆる革命が内包する、構造的なアキレス腱があるということです。河合隼雄だったかが言っていたことなんですが、フランス革命・全共闘、それらの反動運動って、その反動しているものに、皮肉にも似てくるっていう。河合隼雄は、心理学の投影の理論から言うんです。確かにそうなんですよ、赤軍派の内ゲバとかそうですよね。フランス革命も、王政という不平等を無くすと言ったのに、ジャコバン派が不平等になった訳です。自分たちが打倒したもの以上に独裁化してしまうということです。これってやはり矛盾だなと思います。朝日新聞というと「反権力」って言いますよね。でも朝日新聞社の社内ってどの新聞社よりもヒエラルキー構造が強くて、権威主義的だとか。それって皮肉な話ですよね。すごく家父長制的でっていう話があって、面白いなと思います。
C:一人の人間でもそうですもんね。虐待を受けた子どもって必ず自分の子どもにも虐待するじゃないですか。そういうふうに教わってきたとかそういうにされてきたことが、一つの家庭や一つの個人でもそうしてしまう部分があったり。国もそうなんですね。私は豚が最後人間みたいになって終わったのが嫌だなと思いました。でもいつか死ぬから、人間になった豚が死んだ後にはどうなっちゃうのかなというのはすごく思いました。
B:人間になるというか、豚と人間が全く見分けがつかないという話なんですよね。元々は「人間こそが悪の元凶なんだ」と言っていたのに、もう変わらなくなってしまう。豚が二本足で立ち上がったりしている。漫画はそこのあたり描いていなかったですよね。結構前の方でナポレオンが二本足で歩き始めていました。
C:ビールをこうやっていました。
B:七戒を変更する前から二足で登場していたから、あれーと思いました。原作では、二足で歩いていることを見た時の動物たちの衝撃っぷりがすごいんです。漫画はその辺りがすぽっと抜けてしまっていますね。そういうのがあって、最後に動物たちが家の中をのぞいている、そして豚と人間がビールを飲んでいる、変わらなくなっている。喧嘩をしている理由が、トランプで誰がどのカードを出したのかなんですよね。実際に本当にあった、テヘラン会談という…。
D:あー。資本主義と社会主義の。
B:イギリスの首相とソ連のこの人が会談した話を、オーウェルはギリギリで差し込んだらしいです。
C:へー。
D:そこまでのものがあるとは。この小説において人間というのは資本主義陣営のメタファーですもんね。資本主義なんていうものはクソだ、というところから、皮肉なことに幹部たちは資本主義と手を組んで利益供与をしている。
B:豚がミルクを飲んでいる理由が、豚の健康維持のために必要だ、というのもめちゃくちゃ笑いました。
D:今、公文書危機というのがあるじゃないですか。毎日新聞、昨今の森友での文書改ざんとか。彼らが改ざんをした末に行き着いたのは「そもそも文書を作らなければいいんだ」というところです。それってまさにナポレオンたちと同じです。残すからだめなんだ、残すから「改ざんされた」とか言われるんだ、って。そんなロジックになっていて、日本も相当にやばいところまできていると思いますね。
E:ファイルを燃やしますもんね。
C:すごいですよね。だってこんなことやってもいいと思っている…その考えがすごいですよね。
D:すごいよ。
C:いつかバチが当たるとか思わないんですかね。すごいというか、うらやましい。
A:バチが当たるからやっちゃだめなんですね。
C:そう。お天道様が見てる。「ロクな死に方はしない」とか考えないんだ、おかしいなぁと思っています。
E:何十年も前から変わっていないですしね。
B:これって、ナポレオンがスターリンだから、つまり「一国社会主義」の思想なんですよね。でも追い出された方のスノーボールの思想は「世界革命」なんですよね。そっちがそのまま追い出されなかったらどうなっていたかというのは興味があります。漫画の方が対極的に描かれているけれど。スノーボールがずっとリーダーだったら違っていたのかなって。なんとなくトロツキーの本を読みたくなってきました。スターリンではなく。そろそろ、次のものを選びましょうか。
A:そうですね。
B:すごく面白かったです。
C:面白かった。
B:めちゃくちゃ面白かった。
A:名作ですね。
C:いろんな解釈ができていいですね。ん?色んな解釈をしたらだめなのかな?
B:いいと思いますよ。ふふふ。
D:村上春樹の『1Q84』って、ジョージ・オーウェルの『1984年』のオマージュですよね。あれのリトルピープルとか、ビッグブラザーとか。ビッグブラザー、『1984年』が元ネタです。ビッグブラザーの時代というのが、ソ連とか、アメリカのレッドバージ、赤狩りとか、そんな時代ですよね。だとしたら、21世紀の独裁は、リトルピープルっていう形をとって現れるんだっていうのを村上春樹は言いたかったんですよね。
B:それにオウム真理教の話もあるんですよね。
D:そうだね。
B:組み合わせてっていうか。
D:『リトルピープルの時代』という本があります。宇野さんです。それって仮面ライダーの話なんです。つまり石ノ森章太郎ってことじゃないですか。なんだかつながっているんだなと思います。仮面ライダーって、ショッカーに改造された人が、ショッカーと戦うという話です。あの辺り、石ノ森章太郎とか、ウルトラマンの円谷さんとか、あの人たちって、戦時中に作りたくない戦意高揚映画を作らされていた人たちです。だから、戦後、ものすごく屈折した形の権力批判としてウルトラマンなんかを作っています。
B:ゴジラとかね。
D:あの辺の流れにすごく興味があります。
B:『キャシャーン』も石ノ森章太郎じゃなかったっけ?
D:わからない。
B:『キャシャーン』は宇多田ヒカルの元旦那さんが映画化した…、あれもすごく悲しい話なんですよね。
A:次はどうしましょうか。
B:前回出たのはトマス・モア『ユートピア』でしたね。
C:『ユートピア』…『ユリシーズ』とごっちゃになっています。
B:『ユリシーズ』は無理無理。
C:「あの長いやつ、無理」とか思いました。
D:『ユートピア』、読んでみたいですね。
B:でもまたイギリスになっちゃいますね。こないだ、参加した人が言っていた『源氏物語』。すごく気になって買いました。
E:それで全部?
B:これが14冊あります。
E:そうですよね。
C:そうですよね。ずいぶん短いなと思って…。
B:でも、色々な訳があって、瀬戸内寂聴さんのものが有名だったりするんです。『源氏物語』は長すぎて難しいかな。イギリスから出るなら、コンラッド『闇の奧』という本も。
A:知らない。
B:これって、イギリスから船で出ていく話なんです。象牙貿易で、アフリカのコンゴを植民地化したところを追っていくという話です。まさにイギリスからアフリカに船出していくからちょうどいいかなと。これだけ長くイギリスに停滞したから。『ユートピア』でもいいんだけどね。
A:イギリスはいくらでもありそうですよね。
B:そうなんだよ。ダイレクトに『やし酒飲み』に行くよりは、一旦何かの理由をもってイギリスを抜けるか、それか『ユートピア』に行ってから抜けるか。
A:『ユートピア』に行くってどうですか?
B:いいですよ。
A:ヨーロッパ最後に『ユートピア』。
B:これって小説というよりは、説明なんですよね?
A:そうなんだ。
B:この国の制度はこうでこうで…というような。
A:私は中公文庫か何かを…。
B:あれに近いですよ。『ガリヴァー旅行記』が『ユートピア』を参考にしているんですよね。元ネタ本みたいな感じです。
E:ラテン語なんですね。
B:ん?
E:ラテン語で出版したんですね。
A:へ〜。
B:でもすごい昔でしょ。
E:1516年。
B:当時は本は全部ラテン語じゃないですか。ほとんど全部。今までと違って小説っぽくはないでしょうか。小説っぽい方がいい?
A:確かに、小説じゃなかったとしたら、今までの流れからは違いますね。
B:多分、『ガリヴァー旅行記』に近いから、なんとかの国を見たらこうでした、というような話だと思います。あんまりずれてはいないと思います。結構厚いですよ。200ページくらいある。
C:あー。
B:でも読みやすそうですよ。『ガリヴァー旅行記』と同じ訳者だし。
A:平井正穂さん。私はすごく信頼しています。
B:平井さんね。うんうん。『世界文学案内』という分厚い本を買ったんですけど、それのイギリスのところは全部この人でした。コンラッドもすごく有名らしいから、次の次でも、いつか。
A:イギリスから出るにはいい小説ですよね。
B:そこから『やし酒飲み』じゃないですか?
C:ふふふ。
B:そしてそこから南米に入る。
E:おー。
A:実は、今、「読書マップ」というのを作ろうかと思っていて。画面共有できていますか?
D:すごい。
B:面白いね。
E:「英雄と伝説」、面白いですね。
C:この数字は何?
B:1回目、とかですよね?
A:そうそう。
B:Aくん、一回どこかで番外編として、これを語るのをやったらいいと思います。なんであれが1回目なんだっけ?とか。
C:確かに。あれ?1回目ってなんだっけ?
B:1回目は梶井基次郎の『檸檬』じゃないの?
A:いやいや、その前がありますよ。
B:え?
A:『変身』ですよ。
C:あー。
B:そうだそうだ。なんでカフカ『変身』から梶井基次郎に行ったんだっけ?
A:私たちは世界文学を世界地図で見ているじゃないですか。「旅をする」って言っているように。でも両軸必要かなと思ったんですよね。そしてどんな足跡を残しているかっていうのを見たら面白いかなと思いました。
B:面白い面白い。今度語ろうよ。これを。
A:古典を読むって、こういうことを大切にしたいですよね。
B:やはり1900年代が多いですね。
A:特に日本文学となると1900年代が多い。
B:それはでも芥川をやりすぎたからですよね。
A:それもありますね。
C:確かに。全然抜け出せなかった。
B:もし『源氏物語』なら一番左ですからね。
A:古いと、地域ごとに分かれていないですよね。
B:これが?
A:紀元前に書かれている文学って、地域性がそこまで関係ないというか…。
B:11ってなんですか?
A:『オイディプス王』です。
C:あー。
B:『オイディプス王』かー。
A:これ。『世界文学大図鑑』。これのシェイクスピア版をBさんが持っていましたよね。
B:それも持っているけど。
A:これを横軸の参考にしました。一年を終えて、区切りはないんですけど、こんな振り返りもいいかななんて考えていました。
B:とりあえず『ユートピア』ですね。
A:日程ですね。どうしましょうか。
B:思ったんだけど、これって2週間で読める?
C:読めないですよ。
D:そうだね。
B:来年度から、月一にしてもいいんじゃないかって思っているんですが、どうなんでしょう。
A:どうでしょう。
D:うん。
B:もう新しく入ってこられないよね。膨大な読書量の人じゃないと。
A:そっかそっか。
B:今年度は任せるけど。
D:長めの本だったら3週間4週間空けたりしたらいいんじゃないですか?
A:来年の話が出ましたが、「月のはじめの月曜日」とか決めたほうが予定しやすいんでしょうかね?やりにくいとか。
B:月一くらいの方が読書会はじっくり読めるかもしれないですね。
A:本の選定が難しいですよね。
B:とりあえず次にいきましょう。
A:2週間あけるとすると…。
B:2月1日ですかね。
A:どうでしょうか。

A:では、2月1日の16:00〜17:00ですね。
B:今年度は、アフリカに行って南米に行って終わって、Aくんのさっきやったやつでざっと振り返ったらいいんじゃないですか?アメリカ文学に行ったらまためちゃありますよね。それか、南米に行く前に終えるか。
C:ヨーロッパで。
B:アフリカまでは行って。3月くらいまでにこれやりましたねって回をつくれば、新たに入ってくる人もいるかもしれないですね。
A:読書マップを見つつ、次に行くところを選べると面白いかなとも思いました。
B:なんとなく進んでいって、振り返ってみてこうだったということでいいんじゃないですか?
A:そっかそっか。
B:それを年度でまとめて見てみて、来年度ここ行きたいねとかはあっていいと思います。
A:そうですね。では次はとりあえず2月1日の16時、トマス・モア『ユートピア』でお願いします。