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生活者002

2020年4月12日
生活者002を発行しました。

生活者002
 私ごとですが(個人誌には私ごとしかないような気がしますが)、三月に引っ越しをしました。前よりは暖かく、前よりは少しだけ広いので、家に帰るのが楽しみなのですが、困り事もあります。それは水の出方にムラがあること。特に困っているのはシャワーです。調子の良いときには痛いくらいによく出てくるのですが、調子が悪い時には、ホースをつたうほどしか出てきません。早く管理会社にと思いつつ、調子が良い時もあるので「見に来てくれた時に限って調子が良かったらどうしよう」そんな意識が働いてまだ動き出せずにいます。
 そんな悩みを抱えながら、春がきたようなまだこないような空を眺めながら、毎日仕事に出かけています。 
 先週、職場の看護師さんと理学療法士さんが、ある患者さんのケアの仕方を皆に伝えるために、動画の撮影を試みていました。私が二人の試行錯誤する様子を「楽しそうだな」と眺めていると、そこに短期入所に通う子どもたちがやってきました。居合わせた保育士さんが、「〇〇ちゃん、しーだよ」と声をかけます。よく考えると、彼らがしゃべる練習をしているのは見たことがあるけれど、静かにする練習は見たことがありません。全く違う目的をもつ他者が偶然に集いました。面白い場面だったので、その後も色々な人にその話をしていました。ある作業療法士さんにそのことを伝えると「私だったら、(子どもたちに、)撮影に使ったiPad の重さや、冷たさ、そこまで感じてほしいな」と言われました。そんなことを全く考えつかなかった私は、びっくりすると同時に、「随分違う視点があるものだな」と思いました。
 九日は月に一度の「食堂清掃の日」でした。みんなで一斉に掃除をするのですが、ある介護士さんが不思議な姿勢でスチームコンベクションオーブンを洗っています。背筋を伸ばして立ったまま、両足を大きく広げていました。後ろから見ると足が正三角形になっています。食堂のつねちゃんが「その体勢、介護の腕を磨いているんだね」と言いました。腰を屈めると痛くなってしまうので、そんな体勢をしていたようです。私は「スチコンも、腕も磨いているんですね」とうまいことを言いました。つねちゃんは「わはは」と笑ってくれました。私は油汚れを洗うのが嫌になってしまい、すーっとその場を離れて別な仕事を始めました。遠くからクボさんがじろっと睨んでいるのを感じました。