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第17回 みらいつくり哲学学校オンライン 開催報告

2020年9月3日(木) 13:30~15:00、第17回となる「みらいつくり哲学学校オンライン」を開催しました。

 

奇数回は、大阪哲学学校編『生きる場からの哲学入門』を課題図書にしています。

 

今回は、みらいつくり研究所の編集長、医療法人稲生会の企画戦略室長の高波千代子がレジュメ作成および報告を担当してくれました。

テーマは、「新しい会社組織と幸福な生−幸せの吟味への一つのアプローチ」でした。

 

著者は、フレデリック・ラルー『ティール組織』という本を挙げ、会社組織の在り方と幸福についてを哲学していきました。

 

『ティール組織』という本によると組織は、

神秘型(家族や部族) → 衝動型(原始的な王国) → 順応型(ヒエラルキーに支えられた組織)  → 達成型(現在の会社組織) → 多元型 → ティール型

というように進歩していき、

 

ティール型以前の組織構造として、

 

「恐れ」のマネジメントによる掌握、官僚的組織構造があること。その構成員(労働者)の特徴として、怠け者、勤勉ではなく正しい判断能力がない機械の部品のような存在であること。そのため、命令される必要があり、保護を必要としている。

 

というものがあると述べます。

 

それにたいして、ティール組織は全く違った3つの前提で考えられます。

 

①「自主経営(self-management)」:組織から管理職をなくし、権限移譲の必要ない組織構造と行動様式を作り上げることによる自治組織(チーム)
→これによって、モチベーションの向上、成長の機会を得る

 

②「全体性(wholeness)」:仕事場と私生活を分断せずにありのままの自分をさらけ出す場となる
→これによって、最も深い人間性が刺激され、思いやりが育まれる

 

③「存在目的(evolutionary purpose)」:組織自体を一つの生命体と捉え、組織の存在目的に基づいて意思決定を行う
→これによって、自分が人生でなすべきことと組織のなすべき仕事が重なり合う

 

また、ティール組織の構成員の特徴として、

「正しいことのできる道理」をわきまえている、「すべての情報にアクセス可能」な環境にある、「集団的知性」に可能性を見出している、「組織のために完全に責任をもち行動する義務を負う」ことを厭わない。

という事を挙げています。

一見すると、ティール組織は、組織として理想的な形(そこで働く社員は幸福)だろうと思われます。ですが著者は、良いことずくめではないだろうと考えたようです。そのポイントを著者は下記のように述べます。

 

1.「全体性」は現代的ブラック企業になる懸念もある。人として生活しているすべての時間を職場に費やすことが強制される可能性は否定できない。

 

2.「自主経営」は経営的な責任まで社員に押し付ける、極めて会社都合の論理。 →1と2から、豊かな生に必要とされる、多元的な社会参加が阻害される可能性がある。

 

3.排除のメカニズムが働く懸念も。一緒に働きたいかを長い時間かけて吟味される、つまり「一緒に働きたいと思えなかった人」を排除=障害者等の間接差別につながりうる。

このように、ティール組織やティール組織以前の(現代の既存の)組織構造についての考察から、幸福な生の在り方が語られていました。

 

レジュメ作成・報告者の高波さんは、2018年オランダ視察でティール組織であるビュートゾルフ(訪問看護)に行った際の私見等も踏まえて、今回の報告をしてくれました。

 

 

ディスカッションの内容は、

 

参加者が過去にいた業界はティール組織型の運用が可能か?という考察や、既存の組織形態の中で、「自分が組織の歯車になる心地よさがあったこと・(最終的な場面では上司が責任を取るので)責任を負っていない感覚」「歯車になっている時に、このまま居続ければ幸せになれるだろうという漠然とした期待があった」というような参加者の過去を振り返った話題がありました。

 

また、「稲生会はティール組織なのか?」という疑問から、稲生会運営側の考えを直接聞いてみたり(似ている部分はあるが、ティール組織を目指してはいないそうです)、ティール組織の自分を全てさらけ出し、自分=仕事とする“全体性”に対して、「それでは仕事で行き詰まった場合に自分もだめになってしまうから、そうありたくはない」という考えが挙がり、そこから「仕事一筋だった方が定年して自分を見失うという話はよく聞く。仕事=自分(全体性)のように見える、土畠先生が定年後に自分を見失うビジョンが見えない。この違いは?」といった、参加者の実態に基づく考察等も広がったりしました。

 

最終的には、この課題図書では仕事と幸福が紐づけられることが多いけど、幸せとは仕事に限った話ではないよね。という話題になり、ディスカッションが終わりました。

 

 

今回は仕事や組織といった話題であることや、実地視察の報告もあり、分かりやすく、参加者それぞれの考えが多く聞けたと思います。

 

組織の形態は様々で、どれも一長一短な面があります。「自分はどこで・何をすれば心地よくいられるのか」ということも考えながら、仕事も含めた自分の在り方を考えられたら、より幸福に近づけるのかな?…そんなことを考えました。

 

 

次回、第18回(偶数回)は、9/8(火)10:30~12:00ハイデガーの『存在と時間』より、第1編 第6章「現存在の存在としての気遣い」の後半部分です。いよいよ第1篇が終わります。

 

第19回(奇数回)は、9月17日(木)13:30~15:00『生きる場からの哲学入門』より、「障がい者の生き方」を扱います。
レジュメ作成と報告は、哲学学校の共同主催者である、障害当事者のあいさんが担当してくれます。

当日参加だけでなく、希望があればアーカイブ動画も共有できます。ぜひ、ご連絡ください。

皆さまのご参加をお待ちしております。

 

執筆: 吉成亜実(みらいつくり研究所 リサーチフェロー兼ライター)

 

 

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