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太樹さんのこと_vol.5

2025.10.23_公開

車内では色々な話をしました.

ウェイクアップガールズの話をしました.
「ストレッチャーならコンサートも行けるかも」
太樹さんが後ろの席で嬉しそうにしていることがわかりました.

段々と目的地に近づいているようです.
この辺り,熊が出ているところですよ.
そんな話を誰かがしていました.

「あそこですね」
シロクマさんが運転席で顔を前に出しながら指差しました.

シロクマさんが指をさした先の家の玄関には,
コンパネで作ったスロープが置いてありました.

到着すると
誰が知らせたわけではないのですが,
太樹さんのお父さんが玄関ドアから外に出てきました.
車の近くまできて様子を見ています.
太樹さんのお母さんは,玄関ドアの近くにいました.

介護関係者らしき襟付きの速乾ユニフォームを着た方が2名歩いてきました.
胸には「ラポール」と書いてありました.事業所の名前なのでしょう.
一人は高機能スニーカーを履いていて,ニコニコしているのがマスク越しにもわかりました.
もう一人はお父さんに話しかけ,もうすでに目が潤んでいる様子でした.

二人は,
「太樹!」
「だい!」
と声をかけ,手を振りました.
ニコッと笑う太樹さん.
二人は太樹さんが車から降りるのを隙間から見ています.
観察するように見ているのは,これから何度も帰ってくること,そして自分たちがそのお手伝いをすることを想定しているからでしょう.

お母さんが,お二人に話しかけます.
「車どこに置いたの?」
「いつもの,あっち」
「今,熊出てて,警察回ってるから,こっちに置きな」
そんな会話から,もうご家族との関係が長いことがわかります.

ストレッチャーで家に帰ってくるのは初めてのようです.
通れるかな?
通れるでしょ
そんな会話が聞こえてきます.
呼吸器や加湿器が乗った台と
太樹さんが乗ったストレッチャーが
離れすぎないように注意しつつ,
太樹さんの表情や,周りの状況に目配りする,おじさんたち.
声をかけあいながら,
目線でたくさんのコミュニケーションをとりながら,
みんなが家の中に入って行きました.

続きます.

2025.10.23
みらいつくり研究所
まついかい